One another
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「ちびー!ごはんごはん」

ユウジくんがにこにこしながらやってくる。
自分が食べるわけでもないのに今日はいつもよりうれしそう。
なんかあったでしょ?ね?
とりあえず、ぼくは元気にお返事をする。

ワンワン。

ぼくは犬である。
でもちょっと特殊な状況の犬。
まだ誰のものでもない犬。
2週間前あたりかたこのデパートのペットコーナーにいる。
いる・・・というよりも、居座っているといったほうがよいのかもしれない。
なぜかっていうと、ぼくは人見知りする犬なのだ。
ということにしてるケド、ほんと言うとここをはなれたくない。

その理由はまずこの人。
まだ名前のついていないぼくを「ちび」なんて呼ぶこの人。
「ちび、今日の服見た?
 あれね、俺も同じの持ってんの!
 うれしー、趣味が同じってことだよなー。」
ハイハイ、またそーゆーことですか。

ぼくの皿にドッグフードを話す、この人。
このペットコーナーでバイトをしているユウジくん。
照れ屋なユウジくんが主語を抜かして話すときは、
100%「エリコちゃん」の話題だ。

ぼくがここを離れたくない理由のもう一つ。
それは、エリコちゃん。
ペットコーナーのおとなりのインテリア雑貨コーナーでバイトをしている。

ぼくは、ユウジくんもエリコちゃんもだいすきだ。
だから、知ってるよ。
二人とも、お互いをみてること。
でも、二人とも、それを知らないみたい。
にんげんって、むずかしい。

「今日さ、遅番っぽいんだよー。
 でも、一緒に帰るとかさ・・・ありえないよな?
 なーんか、待ち伏せしてるみたいでやじゃん?」
さっきまでたのしそうにしてたくせに、ユウジくんは急にしゅんとなる。
もしも、ユウジくんが犬なら、しゅーんってしっぽも耳もさがってるのかな。

ねぇ、エリコちゃんが今こっちのほうちらっと見たよ。
ぼくのほう見てるから気づかないんだよ。あーぁ。

もうすぐ閉店。レジを閉めたり、伝票の整理したり。
ユウジくんもエリコちゃんもいそがしそう。

ねーぇ?ぼくは明日になればいなくなるかもしれないんだよ?
ユウジくんの話もきいてあげられなくなるかもしれないし、
エリコちゃんの目線にも気づいてあげられなくなるかもしれないんだよ?

二人の関係に、まほうをかけよう。

「ちびー?」
ユウジくんの声。
返事なんかしてあげない。
「おまえちっちゃいから、どこにいるかわかんなくなるよなー。」
口の端をちょっと上げて、ユウジくんが笑いながら言う。
いつもちゃんといると思わないでね?
どうせぼくがお気に入りのタオルにまるまってると思ってるんでしょ?
「あれ?ちびー?」
いつもの穏やかな声が不安そうにひびく。
「ちーびー?どこー?」

「どうかしたんですか?」
帰り支度を済ませたエリコちゃんが顔をのぞかせる。
「ちびがいないんです!」
「えー?!」
「鍵しめたはずなんですけど・・」
「とりあえず、探しましょう!」

閉店ちょっとあとの脱出。
さぁ、ぼくが見つけられるかな?
愛のチカラで!なーんてね。

お互いの気持ちに気づくまで、出てきてなんてあげないんだから。




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