Spring Starter
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たとえば、君が好きです。

…たとえばって、なにそれ。
なんて自分でつっこみつつ想うこと。

たとえば、君が好きなんです。
いつもより、多めにマスカラをつけること。
ケイタイのそばから離れられないこと。
空の色がやけにキレイに見えること。
そのすべての現象に例をあげてみるならば、ね。

たとえば、誰かに会うとか。
たとえば、誰かを待ってるとか。
たとえば、わたしの気分がなんだかうきうきしてるとか。

たとえば、君を好きだとか。

遠回しかもしれないけど、たどり着く経路がおかしいかもしれないけど。

たとえば、君が好きです。


白かったはずの道から、アスファルトが顔を出した。
それは、季語としては成り立たないけれど、
わたしにとっては、少しだけど春が来たことを意味するものだったりするのだ。

3月の北海道、晴れ。春休み真っ最中。
「んのぉっ」
活字にするとたぶんこんな感じになるだろう。
通学証明書を取りにわざわざ大学まで来たわたしは、見慣れた人影に思わず変な声をあげた。
「よっ」
「…なにしてんですか?」

いやだなぁ、と思うのだ。
会えることは、すごくうれしいことなのだ。
でも、こうやって不意に会うとどうしていいかわからない。
神様がわたしたちを結びつけようとしてるのね!なーんて無駄に運命感じてしまう。
そんな自分がつくづくいやになる。
叶わない恋ならばね、いっその事どうやっても会えないほうがいい。

「ひまだから」
「あ、そーですか」
あっさりとした返事にわたしも微苦笑するしかない。

見慣れているにしても、彼がここにいるのは不自然だった。
数日前に卒業祝賀会を終え、感動のお別れなんてしちゃったはず。
卒業生ではあるものの、在学生でさえこんな春休みに学校になんか来ない。

だから、わたしだって心の準備ってものをまったくもってしてなかった。
もう会えないだろうと思っていたのだ。
どちらかの働きかけがないと会うことのない関係。
その関係に、わたしはそっと‘あきらめ’を含ませていた。

「明日さ、引っ越すんだよね」
「それで名残惜しくてここへ?」
「そゆこと」

先輩は、大学の近くのアパートで一人暮らしをしていた。
わたしもそこへみんなで遊びにいったことが何度かある。
「さみしいですねー」
「おっ。俺がいなくなることが?」
ちょっと機嫌よさそうに笑顔を見せる先輩に、わたしも笑顔を返す。
「終電乗り遅れたら、行く場所が一つ減っちゃった」

かわいくないかわいくない。
わたしの言葉は、うそをつく。

うそをつけばつくほどに、
それがうそだって気づけば気づくほどに。
好きって気持ちがじわじわとやってくる。

そっと深呼吸。

一つ、芽が出たら、
他の芽も焦って顔を出すだろうか?
そうすれば、春は近い?

「そうだ!先輩」
「なに?」
「ちょっと言い忘れてたことがあったんですよ!」


たとえば、早口になってること。
たとえば、お気に入りの服着てこなかったことを後悔してること。
たとえば、こんなにもドキドキしてること。

たとえ話にでもしないと、どうにかなりそうなわたしの気持ち。

たとえば、君が好きです。
具体的にいうと、君が好きです。
ぶっちゃけて言うと、君が好きです。

どうせなら、高く跳んでみるのもいい。
よーし。がんばれ自分。

「わたしね、先輩のことが好きでした」

跳んだら、あとは落ちるだけかもしれない。
でも、勢いよく落ちたら、また跳べばいい。

「あ、予想当たった」
「は?!」

たとえば、すぐ照れるところ。
たとえば、話をはぐらかすところ。
たとえば、余裕そうな顔して歩く姿。

やっぱり想うことは、ひとつ。


きっと春はもうすぐそこ。




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