ブランコ
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ばーん。
ピストルの形をつくって月を撃つ。
わたしのこんな小さな攻撃じゃ、月はびくともしない。
この世界は明るすぎるのかもしれない。
だから、見えないものが信じられなくなるんだ。
言葉にも、口にもできないわたしの気持ち。
この世界が、真っ暗になってしまえばいい。
そうすれば…届くのかな?
公園にいきたいと言い出したわたしに、彼はあきれながらもついてきてくれた。
夜中の3時。みんなでばかみたいに飲んだ帰り道。
君とこうして話すようになったのも、帰る方向が一緒だったから。
「酔ってるだろ?」
「ぜーんぜんっ」
正気で本気。
ブランコに乗ってめいっぱい漕ぐわたしを、仕方ないなぁって顔で笑った。
酔ってるって思ってもらえれば、そのほうがよいのかな。
星も月も、わたしの足元に落ちた。
ここから飛び降りたら、空に溶けられるんじゃないかと思う。
「あぶないぞ」
横から聞こえる声に聞こえない振りをする。
好きです。大好きです。
心の中で何度も確認した言葉。
月が薄れて、太陽が顔を出す。
世界が明るくなる。
わたしの気持ちは、届いてますか?
君の視界に入ろうとするわたしに、気づいてますか?
夜と朝の間。
足を付いて止めることは簡単なのに。
止められない宙ぶらりんなわたしの気持ち。
「あのさー」
「なにー?」
もう帰ろうとか、そんな言葉を予測して速度を緩める。
「どう思う?」
「なにがー?」
予想に反して会話をはじめた君に、わたしは緩めた速度を再び加速させる。
「わかれよ!!」
「は?何?」
質問で返すわたしに、君も争うみたいにブランコをこぐ。
揺れる幅は君の方が大きいのだけど。
前へ、後ろへ。
君とわたしの横の距離は一定の距離を保ったまま。
「あの二人、つきあってんのかな」
君の言葉に、わたしの速度が緩まる。
二人のテンポがずれはじめた。
わたしが前へ出ると、君のブランコは後ろへ。
君が前へ出ると、わたしのブランコは後ろへ。
さっきまでの同じテンポがうそみたいに。
距離も、位置も、君が遠い。
君の言葉も、風に流されて遠い。
「今日もすごいいい感じだったよなー」
「そうかもね」
そんなの知らないよ。
わたしは、君のことしか見てなかったんだから。
「お前、あいつと仲いいじゃん?」
「うん。まーね」
「なんか知ってる?」
わたしの気持ちなんかよりも、あの子の気持ちのほうが君には重要で。
「んー。特に聞いてない」
いじわる言ってるわけじゃない。これが真実。
「そっか」
「うん」
吹っ切るみたいに、君はブランコをさらに漕ぐ。
太陽が、わたしたちを照らし始める。
子供みたいに必死にブランコを揺らす君の顔。
世界が明るいから見えるものもあるのだと知った。
言葉にできない気持ち。
わたしも笑顔で君につたえられたらいい。
好きです。大好きです。
君が誰を好きだって、今のわたしはそれだけでいい。
君の加速で、わたしたちの距離はまた同じ距離を戻す。
あの子を想うように、高く漕ぐ君。
君に近づけるように、そっとペースを合わせるわたし。
ようやく、君の顔が真横に見えた。
2003/11/12
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