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「いらっしゃいませー」

世の中は着々と進化してゆくのだ。
わたしは、自動ドアを見ながらいつもそんなことを考える。
自動ドア、防犯センサー、やたら元気なあいさつ。
はっきり言って不釣合いだけど、おかしなことではないのだ。
ここはお店なのだから。

ただ、店員と自動ドアの音しか響かないような静かな本屋だとしても。

「いらっしゃいませ」
バーコードをレジに向ける。
「240円になります」
袋に入れながら言う。(もちろん笑顔)
「240円ちょうどお預かりします」
レジを打って、本を渡す。
「レシートのお返しです。ありがとうございましたー」

なんて一方的。
まぁ、下手に絡んでこられたところで困るんだけど。

笑顔がよい、とよくわからない理由でレジ担当になってしまったわたしは、毎日が暇との戦いだった。
本屋なんてコンビニじゃあるまいしお客さんが絶えず来るわけじゃない。
でも、レジにはいなくちゃいけない。
ぼーっとしてていいよ、と言われるけれど、そのぼーっとすることは意外とむずかしい。

「すごい、ひまそう」
「すごい、ひま」

品出しを終えて戻ってきたのは同い年のバイトの男の子。
本屋でバイトする人間は2タイプいる。
一つは本が好きな人、二つ目はただ立ってるだけ楽そうだと思って入った人。
よいしょ、と返品する本をカウンターに置く彼は、まちがいなく前者である。

「…これ、売れなかったんだよねー」
「そんなに大量に発注したのわたしじゃないよ」
「うん。俺だし」
軽いため息をついたと思えば、困ったように微笑む。
「置いておけば売れるかもよ?」
「じゃぁ、買う?」
「ごめん。いらない」
めいっぱい笑顔で言うと、またしゅんとした顔をする。
「…さ、返品だ」

伝票とにらめっこする横顔を見つめる。
ひまつぶしに見てるだけ。
そう言い訳したいけど、実はそうじゃない。
書くのに真剣で視線に気付いてないのは、好都合。

それは、きっとわたしにとってだけじゃない。
知ってるんだ。
君を見てるからね。
だからね、気付いちゃうんだよね、わたし。
君を見てるのはわたしだけじゃないってことは。

「ちょっと、メンテナンス行ってくるからー」
「はーい」
わたしは文芸書のコーナーに行って本を整理してゆく。
売れそうな本は面だしに、もう売れないかって本は容赦なく棚に並べ替える。
そして、この角度からちょうど見える彼に目をやる。

ほら、ね。

わたしがいなくなった途端。
雑誌コーナーにいた女子高生がレジに向かう。
いらっしゃいませ、彼の笑顔付き。
女子高生さんは緊張しながらも雑誌を手渡す。
女泣かせめ。そう言いたいけれど、本人にその自覚はまったくないんだろうし。

わたしは、彼女にタイミングとかチャンスとかあげてるのだろうか。
違う違う。売り上げ伸ばしてるだけ。

実は、レジになんて立たせたくないなんてことは、心の奥に隠しておくことにして。



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