act.11
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いつものように、彼女との会話は進んだ。

あまり饒舌とは言えなかった僕は、だんだん饒舌になっていった。
自分でもおかしかった。
彼女のことを知りたくていろんな質問を用意したり、
一度聞いた彼女の答えを、「偶然!」と自分の答えと合わせたり。

くりかえしのような、でもちがう。
そう自分に言い聞かせた。

いつものような「はじめまして」の後に、彼女はいつもと違うことを聞いてきた。
「ライブとかやらないんですか?」
僕ははっとした。
もう、とっくにやってるのに。
一年前はまだライブなんてやってなかったんだ。
「うーん・・見に来てくれます?」
「やるんですかぁ?!見にいきたいですっ!」
なんだか、我ながらおかしな返事をしてしまった。
意識しすぎて、妙な質問返し。
それをごまかすみたいに、僕はにっこりと笑う。

「ライブとか・・どう?」
「っはぁ?!」
あまりにもお姉さんと反応が違うので僕は笑ってしまう。
「いや、見に来たりしない?」
「あたし?お姉ちゃん?」
きっぱりと、質問で返してくる。するどい。
「いきなりライブとか、戸惑う?」
「んー、ライブ自体は説明すればどうにかなりそうなもんだけど・・」
「だけど?」
さみしそうに理菜が笑う。
「ライブの途中で、どうなるかわかんない。」
「途中?」
「うん。」
理菜は目を合わせようとしない。
きっと、言いたくないことを言おうとしてるんだ。
そして、僕はいつも言わせてしまうんだ。
「ライブの途中で、どうしてここにいるかこわくなるかも。
 それに、お姉ちゃんにとっては知らない曲だっていっぱいあるでしょう?」

「ねぇ?」
理菜が、明るい表情に戻して言う。
「どうしてmarbleなの?ちょっと気になってた。」
「なんだろう?」
「自分でもわかんないのー?」
理菜がくすくすと笑う。ちょっとばかにしたみたいに。
いつの間にかそれが憎らしくなくなった僕は笑って答える。
「曖昧さっていうのかな。うまく言えないけど。
 marbleって、ピー玉って意味なんだよ。
 でも、大理石って意味もある。」
「ほぉー、案外知的じゃん。」
「案外とかいうなよー。」
「で?」
「うん。ビー玉にも大理石にもなりたいんだ。」
「意味は違っても、子供も大人にも価値がある、のね。」
「そういうこと。」

価値があるかなんてわからない。
誰からも愛されたいわけじゃない。
ビー玉の価値は大人にはわからないかもしれないし、
大理石の価値は子供にはわからないかもしれない。
ポジティブに理由付けをしてみた。

本当は、もう一つ意味がある。
heart of marble
心の冷たい人という意味だ。
ネットの世界で、冷静に生きていこうと思っていた。
誰とも関わらずに、ただ客観的に。

今の僕からしてみれば、そんなHNがはずかしく思えて、
どうにか由来をつけようと、辞書で探した。
ビー玉と大理石。

君に出会うまでは、冷静な僕も嫌いではなかったはずなのに。

「なーんか、かっこよいじゃん。」
「そう?」
「うん。」

あとで付けた言い訳なだけに、僕は苦笑してしまう。

「あたしのクロックはねー。」

楽しげに理菜が笑う。

「あたしが時計になりたくて。
 お姉ちゃんの時を刻む時計に。」

僕は、大切な事を忘れていたようだ。




2002/04/01

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