act.7
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「今日はありがとうございました。
 本当にびっくりだったけど、うれしかったです。
 お姉ちゃんの喜ぶ顔も見れたし。
 また会うって、言ったこと、無理して守らなくていいです。
 だって、お姉ちゃんはもう、あなたに会ったことも覚えてない。
 だから、いいんです。
 あなたが、『会えますよ』って言ってくれただけで、うれしかった。
 それだけで、十分です。
 
 ちょっとの間だったけど、たくさんありがとう。ほんとうに。
 では、お仕事がんばってください。
 応援しています。
                 クロックこと、理菜より。

 追伸。実は有名人に会えちゃってラッキーって感じでした(笑) 」

帰宅した僕を迎えたのは、彼女の妹からのメールだった。

『それだけで、十分です。』

理菜のその言葉が、僕の中で響き渡る。
関わらないでほしい、そういう意味なんだろうか。
返事をしてよいのかためらってしまう。
理菜は、この偶然でできた関係を、切ろうとしてる?

また、会いたい。
僕は確かにそう思っていた。
同情とか、そんなんじゃない。
こんなにたくさん人はいるのに、僕はどうして君に会いたいんだろう。

「びっくりさせてごめん。
 僕のほうこそ、ありがとう。
 うまく言えないけど、なんかいろいろ考えさせられた。
 もしかしたら、迷惑に思われてるかもしれないって、考えたりもした。
 だから、ごめんなさい。

 もしも、迷惑じゃなかったら、本当にまた会いたいです。
 クロックにも、お姉さんにも。
 今度は、好奇心なんかじゃなく、純粋にそう思います。

 よかったら、メール下さい。
                   marble」

返事は、すぐに届いた。

「迷惑なんかじゃないです。
 あなたが迷惑じゃなければ、私も、お姉ちゃんも迷惑じゃない。
 はっきり言います。
 傷付くのは、私たちじゃない。
 あなたのほうです。

 会える時に、いつでも連絡下さい。
 ただし、お姉ちゃんは注意深い人です。
 だから、会うのは私のいるときにしてください。
                       クロック 」

そこには、携帯の番号と住所が書かれてあった。

理菜は、賢い子だ。
きっと、わかってたんだろう。
僕がお姉さんのことを気になってることも。
だから、僕を試そうとした。
中途半端な気持ちで関わるな、と。
そして、僕自身が傷付くことになる、と。

ブルーのペンで書かれた優しい文字。空色のレターセット。
僕はそれを手に取り、文字をゆっくりと指でなぞった。
君が綴った文字。

急がば回れ、なんていうけれど。
やりたいこととやらなきゃいけない事。
それに伴う時間のバランスに満足できている人間はきっとそんなにいない。
だから、僕は待とう。
君に会える日を楽しみに。

それが、どんなに楽しくとも、悲しくとも
君に会える、それだけを楽しみに待とう。




2002/03/21

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