act.8
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「げーのーじんって、案外ひまなんだ?」
「でも、4日振りじゃん?」
「4日ってことはー・・週休2日?」
「今日だって、さっきまで仕事だったし」
「・・・そっか。」

4日ぶりにあった理菜は、楽しそうに憎まれ口を叩く。
僕は、そんな理菜がかわいらしくて笑ってしまう。
「なーに?そんなに私に会えるのがうれしい?」
わかってるくせに。
自分から僕へチャンスをくれたくせに。

玄関の前でのこんな会話も、僕にはうれしい。
奥には君がいる。君に会える。

「おねえちゃーん♪」
たのしそうに、でもあのいたずらっぽさは残して、理菜が言う。
よかったね?って僕に目でいいながら。

「理菜?お客さん?」

ドアから、ひょこっと顔が覗く。
「ひゃぁ!!」
びっくりして後ずさりなんてして。

空気が変わった。
まるで魔法みたいに。
やわらかく、ふわりと。

「うふふふ。ちょっと前からお友達なの。」
ぺこり、と頭を下げる僕に、彼女もあわてて頭を下げる。
顔を上げた君と目が合う。
でも、照れたように僕がそらしてしまう。
「友達だって、教えてなくてごめんねー。」
楽しげに理菜が笑う。
「ほんと!どうして教えてくれなかったの!?」
「・・びっくりさせたかったんだもん。」
いつもと変わらない妹との会話をしながら、僕のほうをちらちらと気にする。

「はじめまして。」
あのとき、はじめて交わした“あいさつ”がまたくり返された。
彼女は少しはずかしそうに、でもうれしそうに。
すぅっと一筋、冷たい水が僕の心を流れる。
その水を何も感じないふりして、僕も笑顔で返す。
「はじめまして。」
できるだけ、好印象に。初対面なんだから。

はじめて会ったあの時と同じように、僕たちはテーブルをはさんで向かい合う。
理菜が紅茶を運んでくる。
僕に「ごゆっくりー」と少し笑いながらささやいて自分の部屋に行く。
「理菜ー?」
取り残された姉は不安そうに言う。
妹とちがって人見知りなんだろう。
「ん?」
「理菜は一緒に話したりとかしないの?友達じゃ・・?」
ああ、確かに。少し違和感があるかもしれない。
僕は理菜の言葉を待つ。
すると、理菜は真顔で言う。
「だって、おねーちゃんに会いたがってたし。」
言い訳の上手な彼女から出たストレートな言葉に、僕は思わずむせる。
理菜はそんな僕を笑いながら見ると、じゃぁねーと部屋のドアを閉める。

僕たちは、なんとなく目を合わせて、なんとなく微笑み合った。
なんとなく照れながら。
なんとなく意図的に。

「いつも、手紙ありがとう。」
「読んでくれてるんですか?」
「もちろん。」
「うれしい!」
またあの笑顔。目をひくやわらかい笑顔。
「返事書けなくてごめんね。」
「いいんです。読んでくれてるだけでうれしい!」

居間の隅にあるピアノに目をやる。
「ピアノ・・弾くの?」
「はい。私が。」
「理菜ちゃんは弾かなそうだもんねー」
「あの子はパソコンばっかり!」
「あー、そんな感じ!」

僕たちの会話はくりかえされる。
僕が意図的に内容とニュアンスを少し変化させながら。

「水色のレターセットで手紙くれたよね?」
「はい!覚えててくれたんですかー?」
「うん。すごく印象的だったから。」
「ほんとですか?うれしい!」
「返事いつか書くから。」
「いいんですよ。会えただけで・・ううん、読んでもらえただけでうれしい!」

「ピアノ弾くんだね。何弾くの?」
「・・・言っても笑いません?」
「うん。笑わないよ。」
「あなたの曲ばっかりです。」
「ははは。ありがとう。うれしいよ。」

変化はあっても進展はない。
リセット。そんな言葉がよぎる。

ただ、僕の心だけが変わってゆく。

好きになってもいいですか?




2002/03/23

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